驟雨
やっと12月らしく気温が下がり、喜んでいる人間を私は自分以外に周りに見つけられずにいる。孤独。
冬将軍の到着は年々遅くなる。落葉って前は11月半ばじゃなかったか。
制服を着ていた頃の私は、明治通りに散る落ち葉のなか帰路を辿るのが毎年の楽しみだった。
その並木は地下鉄工事のためほとんど切られてしまった。
あのときのような、驟雨のような落葉が見たい。
「その女を、彼は気に入っていた。気に入る、ということは愛するとは別のことだ。愛することは、この世の中に自分の分身を一つ持つことだ。それは、自分自身にたいしての顧慮が倍になることである。そこに愛情の鮮烈さもあるのだろうが、わずらわしさが倍になることとしてそれから故意に身を避けているうちに、胸のときめくという感情は彼と疎遠なものになって行った。」 吉行淳之介「驟雨」
この定義を吉行せんせいは「気に入っている」らしく、「原色の街」でも同じことを書いている。
「気に入るということは、愛することとは別のことである。気に入るということは、はるかに微温的なことだ。愛することは、この世の中に自分の分身を一つ持つことだ。それは、自分自身にたいしてのさまざまな顧慮が、倍になることでもある。そこに愛情の鮮烈さもあるのだが、彼はわずらわしさが倍になることとして、そこから故意に身を遠ざけていた。それは、彼が怠惰なためでもあり、又、感じ易すぎる自分自身にたいして疲れているためでもあった。」
まるでオザケンの「それはちょっと」だ。
- 作者: 吉行淳之介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1966/10/24
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 24回
- この商品を含むブログ (32件) を見る