炊事記と恋人

中をくりぬいたジャガイモにサーモンと生ハム、みじん切り玉葱、卵、小麦粉をまぜたものを詰め、蒸し、パルメザンチーズをかけてオーブンで焼く。
とても美味しかったので恋人の家に持って行き、ほうれん草とメカジキのパスタとともに食べてもらった。
いかにもかわいらしいこの料理を、フォークぶっ刺してひと口でたいらげた無骨な恋人がとても愛しく感じられた。
ここ1年ほどの私の「小洒落たものアレルギー」は彼の影響によるところも大きく、じゃがいもを「うまい」と頬張る恋人を見ていて、私の中で「この新しいお気に入りの料理にかわいらしい名前をつけよう」などという乙女な考えは瞬時に蒸発した。
こんな食べ物は「いも」と呼べばそれでいいのだ。

絲山さんが書くものは小説よりエッセイが好きです。

豚キムチにジンクスはあるのか―絲的炊事記

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